丑首

sexyhoya_kouzou2004-06-10

江戸時代、宝暦年間の頃の話。前田家中の某は江戸詰の任を終えて
久方ぶりに金沢に戻った。道中の疲れも、久しぶりに息子や妻、母と
会う楽しみで忘れていた。しかし今戻ったぞ、と戸口を開くと、
勢ぞろいして某を迎えた家人はすべて牛の顔であった。妻の衣服を
着た牛の怪物が御帰りなさいませ、と挨拶するとともに子の衣服を
来た怪物がお帰りなさいませ、お帰りなさいませ、お帰りなさいませ
女中の衣服を着た怪物がお帰りなさいませと続ける。おのれ物の怪め、
と刀に手をかけ切り殺そうとした某であったが、待てこれは気の迷い
に相違ない、とも考えた。


某は平然を装い、うむ留守中ご苦労だった少し休むがわしの部屋には
入るでないぞとと妻の服を着た怪物に一言言い放ち、刀をもったまま
自分の部屋にズタズタと足音をたてて入るや否や、布団を敷き、戸
に棒をつっかえ用心をしたうえで刀の鞘を握り締めながら眠った。


ふた時ほど眠った後目を覚まし、念のため刀を腰に差した上で家人の
顔を見てみると平時とかわりなく人間の顔であった。某はほっと
するとどこかお加減が悪いのでございますかと聞く妻や女中に対し
大事ないと答え、茶をいれてくれぬかと某は女中に頼み、茶を
飲み道中の土産の饅頭を頬張り笑いながら妻にこの話をした。
妻も笑った。一時の気の迷いに騙されることなく冷静な振る舞いを
した某に対し武士の心得天晴であるという評を付け加えた上で
この話は終わっている。


あんがいキチガイって簡単になるっぽい