蕎麦を食う


そばをすすりながら
ものをおもって
七味をかけて
ひとつのことがらや
ふたつの性別に
たいしての
むかつきを
おおいに
かみしめながら


軽い苦味と香ばしさが
いましていることについて
どうおもうんだ
おまえらは


あいにくさまと、このそばは
山形までわざわざいって
食らってきたしろものだから
そんじょそこらの立ちそばとはちがい
枕のようなどぎついかおりと
あまいタレがまじり
むかしの貧しさがひるがえって
うまいうまいと食らわれるようになった
なまやさしくないしろものだ


薬味をかけながら
舌がしびれたせいで
竹筒に入った日本酒は
ずいぶんと甘く感じる
それだけのための
蕎麦ではあるまい


たしかに蕎麦は美味かった
それで蕎麦はおわらない
腹にふくれて、とんとんと
酒のめまいと残った甘みが
ひろがっているのは
けっして桃源などにいるという
あのなまやさしい感覚ではない


はらいっぱいになったむかつきを
はきだそうとして
おれは、いなかみちにいて
なにもない