なつめ臭が広がる
ひろがったベクトルは分度器ではかると180度
ビニロン繊維を燃やしたときのかけらを
アクリルの箱にいれて
においはひとつの振動なのだという
まちがいであろう仮説のために準備する


反応は数分の一秒の誤差で
形状がビーナスか円空仏かというより
そこで彼らや誰かれやらの
描かれた、ということばや
やたらめったらにきりきざまれた
摩訶不思議というような
やわらかなたのしさでふるえた
断言すると角度がない
きざめばきざむほど
方から円に


あまりに現象がちがっているので
語義に疑義を提示したうえで
白色電球を目に押し当てた
なるほど青と緑をおさえて
なんとかとじていた瞼の赤さが
じわりじわりと崩れていき
水色から白にかわろうというとき
ひとつひとつの信号に
たのしみという符号はたしかに
いたいこわいを省略したうえでは
クリームケーキのようにくるくると
屹立していたので


ぼくは全世界を省略できたのだとおもった
だがそうした現象はいつもゆきすぎてあつすぎて
ついにはくらくなってから
たしかに観測されるのだった
あの言い知れぬ暗闇で観測され続ける
ひとつの現象について語り明かそう