インタビューの相手を待って
俺は煙草を吸っていた
じりじりと日に焼けながらぼんやりしていた
火だった、日光と焦り、本質は同じだ
欠伸をかまし
煙草を灰皿に置きっぱなしにして
尿意もないのにトイレに立った。

すると待ち人がそこにいた
ヒゲを生やし、Tシャツにマフラーをした
ジャン・レノ似のファッションリーダーが

お待たせしてすみません、
と礼儀正しく微笑むと
インタビュー相手のファッションリーダーは
カギを内側から閉めた
ファッションリーダーは
しゃがんでいただけませんかと頼んだ。
俺はそれに従った

ずいぶんと時間がたった
ファッションリーダーは
ズボンを履いたまま便器にすわっていた
俺は便所の床にしゃがみながら
上目遣いでリーダーを眺め
必死でメモをとっていた

ファッションリーダーは何も隠さなかった
気が利いてるわけでもなく
愚直にすぎるわけでもない
自分の苦労を誇張しなかった
醜さを言い立てなかった
何の美化も行わなかった
それがファッションだとすら言い切った。
そして、ただ話した
人生に何があったか
ここまでどうやってのしあがったか
俺も今までのことを話そうとしたが
語る言葉は何も無かった。
そうして俺たちはトイレを占領しすぎた

トイレの外には行列ができ
すでに怒号が響いていた。
俺は焦り、出て行くことに躊躇した。
ファッションリーダーは笑った
トイレの水は澄み切って清浄だった
奇跡を信じるかと俺に聞いた
俺は仏教に触れた原住民だった
水は溢れ出し、ビル街は渓流になった
そしてあらゆる人間を浸した

だれもが水の力を過大評価せず
手を洗い、口をゆすいだ