神君徳川いえやす公

いえやす公
幕府をひらいてください

いにしえということばがすっかりと
きえさったあとで誰もが
赤いカーテンや黒いカーテンのむこうで
からごころのうたをうたっています

しかたないのでぼくたちは
石竹でつくられたさくらの顔料の
女の肌をみつめながら
たたきつけられた
きえいるくろがねのひびきが
急転下して流麗になる計算された
さけびのなかで
恋のうたをうたっています

それでもぼくたちは
ほんとうに日輪の子だったのです
おや孝行と学問にはげむ
りっぱなさむらい大将です

東照大権現
いえやす公よ来てください
やさしさとは天下泰平です
厭離穢土です。
どうしようもなく田舎めいた
泥の中でふとった百姓どもが
卑猥なうたをうたいつづけるような
そしてむらはずれの処刑で笑い
子供がうまれても笑う
ひとがわらいつづける種類など
きっとどうでもよく
わらいつづけてみんないい

なるべく人も殺さず
なるべく戦争もせず
しかたがなくやるときは
正々堂々たたかって
大日本六十余州をなかよしで統一し
大世界二百二州に徳を充たす
それがほんとうの徳川です

ああいえやす公
突撃してください